フジツボを知る

フジツボはエビ・カニの仲間

フジツボは、固い殻に覆われているため、しばしば貝類と勘違いされますが、実は、甲殻類に属するエビやカニの仲間です。水面下で殻の中から伸ばす、蔓脚と呼ばれる触手が、エビ・カニの足に相当します。フジツボは、蔓脚を伸ばし、流れてくるプランクトン等を掴み取るようにして食べます。殻の位置を動かすことはできませんが、流れに合わせて蔓脚の向きをくるくると変え、効率よく餌を食べることができます。

チャールズ・ダーウィンによるフジツボのスケッチ(ダーウィン著フジツボ総説(1851-1855)より)。ダーウィンは、有名な「種の起源」を発表する以前にフジツボの分類の研究を熱心に行い、フジツボの多様性から進化論の着想を得たとされている。
水槽で飼育しているミネフジツボ( Balanus rostratus )。蔓脚を精一杯伸ばし、餌となるプランクトンが来るのを待ち構えている。

フジツボの一生

生まれたばかりのフジツボは、固い殻を持っていません。甲殻類に共通するノープリウス幼生として、海の中を泳ぎ回る浮遊生活を送ります。この間に、植物プランクトンを食べ、栄養素をたくさん蓄えた後に、フジツボ独特のキプリスと呼ばれる幼生に変態します。キプリス幼生には、口がなく、ノープリウス幼生時代に体内に蓄えた油球と呼ばれる「お弁当」をエネルギーに、2本の触角でペタペタと歩きながら、その後の一生を過ごす着生場所を決め、そこで脱皮してフジツボになります。

フジツボのノープリウス6齢後期幼生。植物プランクトンを盛んに摂餌し、付着するための栄養を蓄えている。
キプリス幼生。短い2本の手のように見える触角と、クリクリした目が特徴的。口がないので摂餌することはできず、付着場所を決めるまで、体内に蓄えた油球から得たエネルギーで生活する。

フジツボは雌雄同体ですが、他の個体と交尾をします。動くことができないフジツボが編み出した技が、動物界で最長とも噂される、最大で自分の体の8倍まで伸びる生殖器です。この長い生殖器を駆使して、たまたま自分の近くに付着した別の個体と運命的な交尾をします。親となったフジツボは受精した卵をしばらく殻の中で保持し、そして、かえったノープリウス幼生が親に別れを告げて、新たな付着場所を求めて海の中を泳ぎまわるのです。

アカフジツボ(Megabalanus rosa)の交尾の様子。右手前の個体が、左の個体へ生殖器を伸ばしている。


参考文献:
倉谷うらら著「岩波科学ライブラリー フジツボ 魅惑の足まねき」2009年